
狭心症の発作を起こしたとき、ニトログリセリンを服用すると胸の痛みがやわらぎます。この事実は19世紀末頃から知られていました。しかし、なぜそうした効果が得られるのかは、長いあいだ謎とされてきました。
ニトログリセリンの効果のしくみが明らかにされたのは20世紀末のことです。アメリカの学者、ルイス・J・イグナロ氏が、ニトログリセリンを摂取すると体内で一酸化窒素(NO)に変化することを発見したのです。
イグナロ氏は、この発見を含めた一酸化窒素に関する研究で、1998年、他の2人の研究者とともにノーベル医学・生理学賞を受賞しています。一酸化窒素の働きは、医学・生理学において、それほど重要なものでした。
本書でこれから紹介するL―シトルリンは、この一酸化窒素の体内産生を促す作用があります。
体内で産生された一酸化窒素は、わずか数分の1秒で消えてしまいます。その一瞬のあいだに、まさに「起爆剤」のごとく、さまざまな組織に影響を与え、多岐にわたる生理作用を生み出します。血管の老化を防いだり、血圧を調整したり、血液をさらさらにして、心臓や脳を守る「心血管系」への働きはその最たるものです。
また、L―シトルリンには独自の作用も期待されています。どこからどこまでがL―シトルリン単独の作用なのか、線引きするのは難しいのですが、L―シトルリンの摂取は、心血管系のみならず、疲労回復、精力増強、冷え性対策、さらには認知症の予防にも役立つ可能性が示唆されています。
おそらく、L―シトルリンの名を、本書で初めて耳にする人が大半と思われます。なにしろ、わが国では2007年に食品として認可されたばかりの新顔で、一般的な知名度はほとんどないのが現状です。
他方、ヨーロッパでは20年以上前から薬の素材として利用実績があり、アメリカでもサプリメント(栄養補助食品)の形で広く利用されてきました。
そのため、L―シトルリンの健康効果および安全性に関する研究データは充実しています。もともと、L―シトルリンは、私たちが普段口にする食品に広く含まれている成分でもありますから、安全性は歴史が証明しているともいえます。